まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「スゥキスキスゥ 」VITAMIN-Q featuring ANZA(2008)

 おはようございます。

 今日はVITAMIN-Q featuring ANZA「スゥキスキスゥ 」を。


VITAMIN-Q featuring ANZA / スゥキスキスゥ

 

   VITAMIN Qとは真空管のオーディオ・アンプ、ギター・アンプに使われるヴィンテージのオイル・コンデンサーの名称だそうです。

 

 メンバーは元サディスティック・ミカ・バンド加藤和彦小原礼。元一風堂の土屋昌己、シンプリー・レッドのメンバーでもあった屋敷豪太。4人が集まった楽器屋で土屋が”VITAMIN Q"を購入したことからこの名前になったようです。 

 

 そして、この4人に共通するのは、ロンドンで音楽をやった経験があること。それで、ブリティッシュ・ロックをやろうというのがテーマでした。そして、男4人じゃむさいからということで、加藤がANZAを連れてきて”VITAMIN-Q featuring ANZA”になったわけです。

 

 ANZAを連れてきたことで、加藤のイメージとして”ブロンディ”がイメージとして浮かんだそうです。


Blondie - Heart Of Glass (Official Music Video)

   小悪魔的な美女をフリントに置いたロックバンドということですね。

 他にもテレヴィジョンなどNYパンクシーンの要素もバンドに取り入れるようになったようです。

 そして、最終的に70年代のロックの雰囲気を持つオリジナル楽曲ををヴィンテージの楽器や機材を使って達人たちが演奏する作品になりました。

 その中で異色なのがこの「スゥキスキスゥ 」。フィル・スペクターサウンドなのです。以前のインタビューで、加藤は大瀧(詠一)が”表スペクター”なら僕は”裏スペクター”なる発言をしていました。

 確かに、1980年代には「ドゥ・ユー・リメンバー・ミー」(YUKI岡崎友紀))、「だいじょうぶマイ・フレンド」(広田レオナ乃生佳之加藤和彦)「愛・おぼえていますか」(飯島真理)といったスペクター調の作品を彼は残しています。

 

 しかし、どれも、その時代のサウンドに合わせられたもので、正調スペクター・サウンドと呼べるものではありませんでした(一番近いのが「だいじょうぶマイ・フレンド」だと思います)。

 

「だいじょうぶマイ・フレンド」

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「ドゥ・ユー・リメンバー・ミー

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愛・おぼえていますか

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 ただし、加藤がここでVITAMINE Qでフィル・スペクター調を取り上げたのは、

元々そのサウンドをやりたかったのではなく、ロニー・スペクターの”小悪魔キャラ”をボーカルANZAに重ねたからだろうと思います。

 

  「ビー・マイ・ベイビー」はポップスの大スタンダードとして君臨していますが、当時はロネッツのボーカル、ロニー・スペクターのちょっと”あばずれな(?)”小悪魔的な魅力も話題で、彼女たちのロンドン公演のときはまだ若かったストーンズのメンバーがナンパしようと追っかけたという逸話がありますし、ラモーンズなどポップスと縁遠そうなワイルドなロック・アーティストたちが若い頃夢中になったようで、そういう資質を彼女は持っていたんですね。

 

 そして、日本ではスペクター・サウンドっぽいポップスはたくさん作られましたが、

”ロニー・スペクター”軸といいうのは確かになかったですね。シーナ&ザ・ロケッツの

「ユー・メイ・ドリーム」というのがありましたけど、サウンド細野晴臣が相当ニューウェイヴっぽく翻訳していましたし。

 

 僕が思うに、やはり、日本のスペクター風サウンドというのは大瀧詠一が切り拓いたものと言っていいですから、他の人たちもそのスタイル、イメージを追従したのかもしれません。松本隆大瀧詠一のコンビの作品には、セクシーな小悪魔キャラなんていうのは出てきませんから。 

 

 そこで、日本で”ロニー・スペクター軸”のスペクター風サウンドをやれるのは、巧みなポップスのソングライターであり、ミカ・バンドなどで、小悪魔扱いに慣れた(?)加藤和彦しかいなかったわけです。

 

 大瀧詠一が、純粋に音楽としてサウンドのみを徹底追求していた”表スペクター”なら、自分は、ビジュアルやキャラクター、ファッションなど総合的なイメージでとらえる”裏スペクター”なのだと、前述の加藤の発言にはこういう真意があったのではないかと、僕は推測しています。

 

 しかし、スペクター風サウンドを作るのは相当苦労したようです。ヴィンテージの楽器や機材があるのは良かったのですが、このサウンドはスタジオの反響音が大事なのに、彼らの使ったスタジオはデッド(反響音がほとんどない)なところだったらしいです。

 また、このサウンドはギターを何本も重ねて録るのですが、この曲ではドラマーの屋敷豪太を含め、4人全員がギターを弾いたそうです。

 

 結果として、大瀧詠一系以外のスペクター風作品の中でもこれは屈指の出来じゃないかな、と僕は思います。ただ、個人的な好みで言えば、森雪之丞さんの歌詞が森さんワールドがちょっと強い気がします。スゥキスキスゥって、、、。

 ロネッツ、ロニー・スペクターの魅力は一見あばずれっぽい小悪魔女子が、意外に純粋な恋心を歌うっていうところじゃないかと思うので、そういう切ない感じがあるとよかったかと、、。

 まあ、時代が違うのかもしれないですけどね、、

 

 

 

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