おはようございます。
今日はくるりの「ふたつの世界」です。
ミスチルでもバンプでもスピッツでもそうなんですけど、息長く成功しているバンドは、そのキャリアに自分たちのスタイルをじっくりと築き上げていく道筋を見つけることができます。そしてそのスタイルが出来上がると、あくまでもその”型”をベースにバリエーションを加えていくわけです。
しかし、くるりは20年以上のキャリアにわたって、同じサウンドに定着したことのないとても稀有なバンドです。ベスト盤なんかを聴くと、そのサウンドの変化にびっくりします。メンバーチェンジもすごく多いですし。
これは岸田繁という音楽家の”創作の衝動”をなによりも優先してきた結果なんじゃないかと僕は思います。
岸田は、こんな風に語っています。
「『自分で思いついたことしかやりたくない』というのは、小さい時からずっとあって」
「そん時に自分たちの中で流行ってるもんしかやらないんですよ。」
(「くるりのこと」)
そういうことをやれるというのはアーティストとしてとても幸運なことでもあると思いますが、ただ業界内での人間関係を考えるとかなりハードなことでもあったと思います。
ともかく、そのスタンスを貫くことで、くるりは、まったく誰とも違う存在になりえたというのは間違いないでしょう。
それから、彼らには優れたポップ・ナンバーがけっこうありますが、若い頃にポップスを全然聴いてこなかったそうです。そういえば、前にこのブログで取り上げたスガシカオもそうでした。
「ばらの花」(2001年)
「Remember Me」くるり(2013年)
小さいころからポップス好きだったアーティストは、ポップな曲は浮かびやすいとは思いますが、誰々っぽい、という影響からはなかなか逃れられません。そして、それに紐づくポップスの定型、きまりごとに無意識にしばられがちなのかもしれません。
岸田やスガのように、プロになってから客観的な視点を持ちながらポップに接近していった人は、過剰にポップにならず、しかもサウンドがポップスの定石とはけっこう違うので、"どポップな曲が生きづらい”今の時代に合ったちょうどいいポップ感を実現できているのかもなあ、などとも思います。
さて、変遷の多い彼らのレパートリーの中でも僕が驚いたのがこの「ふたつの世界」です。ピアノ・ロックのスタイルなんです。エレキギターは鳴らないし、打ち込みでもない。クラムボンあたりがちょっと近いスタイルでしょうか。
しかし、サウンドより驚いたのは曲の構成なんです。3分ちょっとで典型的なポップ・ソングみたいに見せかけていながら、A,B、サビ云々というポップスの定型をぶち壊すような複雑な構成です。聴く分にはいたって自然なんですけど。バックの演奏もパートパートで実に巧みに変化し続けて、同じパターンの繰り返しは最小限に抑えられています。
こういう曲ができたのは、岸田が指を怪我してギターを弾けなくなった時期に、MIDIを使った打ち込みとアレンジを本格的に始めたからだと本人は語ってます。
打ち込みで細部わたって設計図を作るように曲、アレンジを作り上げて、それを忠実に生演奏で再現しする、というやり方なのだそうです。
さて、この曲は、主人公が現実と霊界の二つの世界を行き来するという、高橋留美子のアニメ「境界のRINNE」のエンディング・テーマということで、歌詞もそれを反映したものになっています。
しかし、歌詞以上に、いたって普通のポップソング風に見せかけながら、よく聴くとなんかすごく変なことになっている(?)その音楽性が何よりこのアニメによく合っているなあと僕は思います。