まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ふられた気持(You've Lost That Lovin' Feelin')」ライチャス・ブラザーズ(1964)

 おはようございます。

 今日はライチャス・ブラザーズの「ふられた気持」です。

www.youtube.com

 

You never close your eyes anymore
When I kiss your lips
And there's no tenderness like before
In your fingertips


You're trying hard not to show it (Baby)
But baby, baby, I know it


You've lost that lovin' feelin'
Whoa, that lovin' feelin'
You've lost that lovin' feelin'
Now it's gone, gone, gone, whoa-oh-oh-oh


Now there's no welcome look in your eyes
When I reach for you
And now you're starting to criticize
Little things I do


It makes me just feel like crying (Baby)
'Cause, baby, something beautiful's dying


You've lost that lovin' feelin'
Whoa, that lovin' feelin'
You've lost that lovin' feelin'
Now it's gone, gone, gone, whoa-oh-oh-oh


Baby, baby, I'd get down on my knees for you
If you would only love me like you used to do, yeah
We had a love, a love, a love you don't find every day
So don't, don't, don't, don't let it slip away
Baby (Baby), baby (Baby)
I beg of you, please (Please), please (Please)
I need your love (I need your love)
I need your love (I need your love)
So bring it on back (So bring it on back)
Bring it on back (So bring it on back)


Bring back that lovin' feelin'
Whoa, that lovin' feeling
Bring back that lovin' feelin'
'Cause it's gone, gone, gone
And I can't go on, whoa-oh-oh


Bring back that lovin' feelin'
Whoa, that lovin' feelin'
Bring back that lovin' feelin'
'Cause it's gone, gone...

 

************************

君はもう瞳を閉じることはない
僕が君の唇にキスするときに
そして、前のような優しさはない
君の指先には


気づかれまいと君は懸命に努めている
だけど、ベイビー、ベイビー、僕にはわかるんだ


君は愛する気持ちをなくしてしまったんだね
ああ、あの愛する気持ちを
あなたは、その愛の感触を失ってしまった。
もう消えてしまった 消えてしまったのさ


今、君の瞳は快く受け入れてはくれない
僕が君に手を伸ばしたときに
そして、今じゃ君は批判しようとしている
僕のするささやかなことに


それが僕を泣きたい気持ちにさせるんだ
だって、ベイビー、美しかったものが息絶えようとしているんだから

君は愛する気持ちをなくしてしまったんだね
ああ、あの愛する気持ちを
あなたは、その愛の感触を失ってしまった。
もう消えてしまった 消えてしまったのさ


ベイビー、ベイビー君のためなら僕は跪きもしよう
昔のように僕を愛してくれるというのなら
僕たちには愛が、愛があった、普段見つけられないような愛が
だから、どうぞ、どうぞ、どうぞ 手放さないで
ベイビー、ベイビー
お願いさ、どうか、どうか、
君の愛が必要なんだ 君の愛が必要なんだ
だから取り戻して 取り戻して

 

取り戻すんだ あの愛する気持ちを
ああ、あの愛する気持ちを
取り戻すんだ あの愛する気持ちを
だって、愛が消えて、消えてしまったから
もう僕はこのままじゃやっていけそうもない

取り戻すんだ あの愛する気持ちを
ああ、あの愛する気持ちを
取り戻すんだ あの愛する気持ちを
だって、愛が消えて、消えてしまったから      (拙訳)

****************************

 

 今回あらためて聴き直しながら和訳に挑戦してみましたが、歌詞、メロディ、アレンジ、歌唱、全てにわたってまさに”まごうことなき”大傑作だと思いました。

 

 

白人がやるR&B、ソウル・ミュージックを”ブルー・アイド・ソウル”と呼ぶとラスカルズの記事で触れましたが、そのパイオニア的存在がライチャス・ブラザーズです。「SOME BLUE-EYED SOUL」というタイトルのアルバムを出したり、それまでは音楽関係者だけが使っていた”ブルー・アイド・ソウル”という名を世間に広めたのが彼らだと言われています。

 ちなみに彼らは、ライチャスという苗字の兄弟ではありません。ビル・メドレーとボビー・ハットフィールドという血縁関係のないボーカリストによるデュオです。カリフォルニア州にあるエル・トロ海兵隊航空基地の黒人兵たちが、彼らのショーを見て”Rightous(正当な)、brothers”と呼んだから、ライチャス・ブラザーズという名前になったと言われています。血縁の兄弟ではなく、黒人の仲間という意味の”ブラザー”だったんですね。それだけ彼らの歌にはソウル・フィーリングがあったわけです。

 

 そして、今日取り上げる「ふられた気持」は、アメリカでの人気と日本での知名度の差が最も大きい曲の一つと言ってもいいかもしれません。実は「ふられた気持」は”ポップス史上最大のヒット”と呼んでもいいほどの曲なんです。

 20世紀でラジオ・テレビで最もオンエア回数が多かったのがこの曲なんです。そして21世紀に入っても今年スティング(ポリス)の「見つめていたい」に抜かれるまでずっと1位をキープしていました。

 また、2012年に史上最も印税を稼いだ曲のリストが発表されましたが、この曲はなんと3位。1位が「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」で2位が「ホワイト・クリスマス」という”イベントもの”ですから、普通のポップ・ソングでは1位ということです。ちなみに4位はビートルズの「イエスタデイ」なので、それだけ破格の、大人気曲なんです。

 

 日本でこの曲の知名度が上がったのは、トム・クルーズの映画「トップ・ガン」(1986)で使われた時でしょうか。トムがパーティ会場で女性にアプローチする時にこの曲を突然歌い始め、最後は兵士たちで合唱になって盛り上がるというシーンでした。アメリカでは本当にみんなが知っている曲なんだなあ、と僕は映画を見ながらあらためて思いました。

www.youtube.com

 

   その以前にはホール&オーツがカバーしてヒットしていました(1980年全米12位)。

www.youtube.com

 

 なぜ、この曲はアメリカ人にこれほどまでに支持されているのでしょう。僕にははっきりとはよくわかりません(苦笑。ただ、あまりに当然のことですが、歌、歌詞、メロディ、アレンジ全てが素晴らしいのは間違いないと思いますし、白人、黒人両方にアピールするものだったというのは大きかったように思います。

 

 アレンジは、このブログにもよく登場するフィル・スペクターが手がけています。

 たくさんのミュージシャンをスタジオに入れていっぺんに演奏させることで生み出される、分厚い音の壁のようなサウンド(”ウォール・オブ・サウンド”)が、ちょうど世の中で大ブレイクしている時期で、フィル本人も完全にノウハウをものにしていたピーク時にあったと思われます。この曲の時は彼自身とりわけ緻密にサウンド作りをしたようです。彼の過剰なまでにドラマティックなサウンドが、この曲の構成、歌唱と相まって特別な化学反応を生み出しているのは疑う余地もありません。

 

 曲を書いたのは、ポップ・ミュージック史上最高のおしどり夫婦と呼ばれるバリー・マン(夫、作曲)&シンシア・ワイル(妻、作詞)のコンビ。

 この曲は何と言っても歌い出しのフレーズが印象的です。

 

 "You Never Close Your Eyes Anymore When I Kissed Your Lips”

 (君はもう瞳を閉じることはない 僕が君の唇にキスするときに)

 これだけで、相手の気持ちが冷めてしまったことがわかる、見事なフレーズです。

 

 ちなみに、バリー・マンがシンシアとコンビを組む前にラリー・コルバーという作詞家と組んで作った曲で、フィル・スペクターがプロデュースしてヒットしたものがあります。パリス・シスターズの「I Love How You Love Me」(わすれたいのに、貴方っていい感じ、こんなに愛しているのに、と、いろんな邦題がついてます)という曲で、その冒頭の歌詞がこんな感じなんです。

 ”I Love How You Eyes Close Whenever You Kiss Me"

(いつも私にキスしてくれるときに、あなたの目を閉じる感じがとても好き)


I LOVE HOW YOU LOVE ME ~ The Paris Sisters (1961)

 

 どちらもキスの時に目を閉じるかどうか、が大問題(?)になる歌です。 こちらは、女性目線でまさにラブラブな時期の歌、そして「ふられた気持ち」は男性目線の失恋の歌。

 男性のラリーが女性目線の歌詞を書き、女性のシンシアが男性目線の歌詞を書いているところも興味深いですが、シンシアが夫の以前のパートナー(もちろん仕事の、ですが)の歌詞の真逆を敢えて書いているところが、なにか”落とし前をつけてる感じ”がして凄いなあと、ずっと思っていたのですが、最近読んだ本に(ケン・エマーソン著「魔法の音楽 アメリカン・ポップス黄金時代年の舞台裏」)、この一行はバリー・マンが「I LOVE HOW YOU LOVE ME」の一行を変えて作ったとの記述がありました。深読みしすぎでした、、。

 ともかく、曲の冒頭の一行の”つかみ”、これはホント大事だな、とつくづく思います。

 

 あと、サビのあとで展開が変わる、日本でいう大サビのパート(Baby Baby,I'd get down my knees for you,,)を入れるというアイディアはフィル・スペクターによるもので、フィルの自宅でバリーとシンシアが作ったそうです。曲作りの実作業はすべてバリーとシンシアによるものらしいですが、こういうアイディアを出したことでフィルも

作詞作曲者のひとりに名を連ねています(名前を押し込んでいた?)。そして、史上3番目の高額の印税の分け前をうまいことゲットしたわけですね。ただし、フィルのサウンドがなければ、ここまでヒットはしてないでしょうから、誰も文句は言えないとは思いますが。

 

 誕生日、クリスマスに次いで史上3番目に売れた曲のテーマが「失恋」というのも考えてみればうなづける、ことです。やっぱりそれだけ人間にとって普遍的で、感情移入できるものですから。

 失恋の情景と心情をドラマティックに、一本の映画を見るかのような感覚を与えてくれるのがこの曲だと思います。

 

 たくさんのヒット曲を持つ名ソング・ライターのジミー・ウェッブは、この曲を初めて聴いた時に打ちのめされた気分になったといいます。

「聴く人は恋人同士の会話を盗み聞きしているようなもの」

 それだけ、この曲は切実にリアルに響いてきたわけです。

 カーラジオでこの曲を聴いていた彼は、

「カーブの手前で車を停めて、ワイパーを一番速く動かしながら、涙をぬぐおうとした」(「魔法の音楽 アメリカン・ポップス黄金時代年の舞台裏」)とあります。

 

   ちなみに、ジミーもまた、リアルに心情や情景が伝わってくるソング・ライティングで名をあげ、1967年にグレン・キャンベルが歌って大ヒットした「恋はフェニックス」という曲は20世紀にテレビ・ラジオでオンエアされた回数が史上20位というスタンダードになっています。

 

 最後に、この翌年にリリースされた、明らかにフィル・スペクターが「ふられた気持」のパターンを踏襲したことのわかる「Just Once In My Life」という曲を。1965年に全米9位まで上がりました。曲を書いたのは、マン&ワイルの好敵手であり同じ会社(アルドン・ミュージック)の仲間でもあった、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィンでした。

 

www.youtube.com

 

 

 

popups.hatenablog.com 

popups.hatenablog.com

 

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com

popups.hatenablog.com