おはようございます。
今日はライチャス・ブラザーズ。白人がやるR&B、ソウル・ミュージックを”ブルー・アイド・ソウル”と呼ぶとラスカルズの記事で触れましたが、
そのパイオニア的存在が彼らです。「SOME BLUE-EYED SOUL」というタイトルのアルバムを出したり、それまでは音楽関係者だけが使っていた”ブルー・アイド・ソウル”という名を世間に広めた張本人だと言われています。
ちなみに彼らは、ライチャスという苗字の兄弟ではありません。ビル・メドレーとボビー・ハットフィールドという血縁関係のないボーカリストによるデュオです。カリフォルニア州にあるエル・トロ海兵隊航空基地の黒人兵たちが、彼らのショーを見て”Rightous(正当な)、brothers”と呼んだから、ライチャス・ブラザーズという名前になったと言われています。血縁の兄弟ではなく、黒人の仲間という意味の”ブラザー”だったんですね。それだけ彼らの歌にはソウル・フィーリングがあったわけです。
そして、今日取り上げる「ふられた気持ち」は、アメリカでの人気と日本での知名度の差が最も大きい曲かもしれません。この曲はポップス史上最大のヒットと呼んでいい曲なんです。
20世紀でラジオ・テレビで最もオンエア回数がおおかったのがこの曲でした。そして21世紀に入っても今年スティング(ポリス)の「見つめていたい」に抜かれるまでずっと1位をキープしていました。
また、2012年に史上最も印税を稼いだ曲のリストが発表されましたが、この曲はなんと3位。1位が「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」2位が「ホワイト・クリスマス」という”イベントもの”ですから、普通のポップスでは1位ということです。ちなみに4位はビートルズの「イエスタデイ」。それだけ破格の、大人気曲なんです。
日本で知名度が少し上がったのは、トム・クルーズの映画「トップ・ガン」で使われた時でしょうか。トムがパーティ会場で女性にアプローチする時にこの曲を突然歌い始め、最後は兵士たちで合唱になって盛り上がるというシーンでした。アメリカでは本当にみんなが知っている曲なんだなあ、と僕は映画を見ながらあらためて思いました。そう言えば、その何年か前にはホール&オーツのカバー・ヴァージョンがヒットしていました。
なぜ、この曲はこんなに支持されているのでしょうか。僕はアメリカ人なのでわかりません(苦笑。
ただ、あまりに当然のことですが、歌、歌詞、メロディ、アレンジ全てが素晴らしいのは間違いないと思います。
歌は前に書いた通り、白人、黒人両方にアピールするものだったというのは大きかった。
そして、アレンジは、このブログにも何度かでてくるフィル・スペクター。
たくさんのミュージシャンをスタジオに入れていっぺんに演奏させることでできる、
分厚い音の壁のようなサウンド(”ウォール・オブ・サウンド”)が、ちょうど世の中で大ブレイクしている時期で、フィル本人も完全にノウハウをものにしていたわけで、この曲の時はとりわけ緻密にサウンド作りをしたようです。彼の独特で過剰なサウンドが、このドラマティックな曲の演出として素晴らしい相乗効果をもたらしたのでしょう。
そして、曲を書いたのは、ポップ・ミュージック史上最高のおしどり夫婦と呼ばれるバリー・マン(夫、作曲)&シンシア・ワイル(妻、作詞)のコンビ。
この曲は何と言っても歌い出しのフレーズが印象的です。
"You Never Close Your Eyes Anymore When I Kissed Your Lips”
(キスしても、君もう決して目を閉じない)
これだけで、相手の気持ちが冷めてしまったことがわかる、見事なフレーズです。
ちなみに、バリー・マンがシンシアとコンビを組む前にラリー・コルバーという作詞家と組んで作った曲で、フィル・スペクターがプロデュースしてヒットしたものがあります。パリス・シスターズの「I Love How You Love Me」(わすれたいのに、貴方っていい感じ、こんなに愛しているのに、と、いろんな邦題がついてます)という曲で、その冒頭の歌詞がこんな感じなんです。
”I Love How You Eyes Close Whenever You Kiss Me"
(いつも私にキスしてくれるときに、あなたの目を閉じる感じがとても好き)
I LOVE HOW YOU LOVE ME ~ The Paris Sisters (1961)
どちらもキスの時に目を閉じるかどうか、が大問題(?)になる歌です。 こちらは、女性目線でまさにラブラブな時期の歌、そして「ふられた気持ち」は男性目線の失恋の歌。
男性のラリーが女性目線の歌詞を書き、女性のシンシアが男性目線の歌詞を書いているところも興味深いですが、シンシアが夫の以前のパートナー(もちろん仕事の、ですが)の歌詞の真逆を敢えて書いているところが、なんか”落とし前つけてる感じ”がして凄いなあと、ずっと思っていたのですが、最近読んだ本に(「魔法の音楽」ケン・エマーソン著)、この一行はバリー・マンが「I LOVE HOW YOU LOVE ME」の一行を変えて作ったとの記述がありました。深読みしすぎでした、、。
曲の冒頭の一行、これはホント大事だな、とつくづく思います。
あと、サビのあとで展開が変わる、日本でいう大サビのパート(Baby Baby,I'd get down my knees for you,,)を入れるというアイディアはフィル・スペクターによるもので、フィルの自宅でバリーとシンシアが作ったそうです。曲作りの実作業はすべてバリーとシンシアによるものらしいですが、こういうアイディアを出したことでフィルも
作詞作曲者のひとりに名を連ねています。そして、史上3番目の高額の印税の分け前をうまいことゲットしたわけですね。ただし、フィルのサウンドがなければ、ここまでヒットしてないわけですから、誰も文句は言わないと思います。
誕生日、クリスマスに次いで史上3番目に売れた曲のテーマが「失恋」というのも考えてみればうなづける、ことです。やっぱりそれだけ人間にとって普遍的で、感情移入できるものですから。
失恋の情景と心情をドラマティックに、一本の映画を見るかのような感覚を与えてくれるのがこの曲だと思います。
たくさんのヒット曲を持つ名ソング・ライターのジミー・ウェッブは、この曲を初めて聴いた時に打ちのめされた気分になったといいます。
「聴く人は恋人同士の会話を盗み聞きしているようなもの」
それだけ、この曲は切実にリアルに響いてきたわけです。
カーラジオを聴いていた彼は、
「カーブの手前で車を停めて、ワイパーを一番速く動かしながら、涙をぬぐおうとした」(「魔法の音楽」)とあります。
ちなみに、ジミーもまた、リアルに心情や情景が伝わってくるソング・ライティングで名をあげ、グレン・キャンベルが歌って大ヒットした「恋はフェニックス」という曲は20世紀にテレビ・ラジオでオンエアされた回数が史上20位というスタンダードになっています。
You've Lost That Loving Feeling Righteous Brothers Stereo HiQ Hybrid JARichardsFilm