まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ウェディング・ベル・ブルース(Wedding Bell Blues)」ローラ・ニーロ(1966)

 おはようございます。

 6月と言えば、梅雨、そして、ジューン・ブライドということでベタですが結婚ネタで、。今日はローラ・ニーロの「ウェディング・ベル・ブルース」です。

 


Laura Nyro - Wedding Bell Blues

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Bill I love you so
I always will
I look at you and see
the passion eyes of May
Oh but am I ever gonna see
my wedding day?


Oh I was on your side Bill
when you were losin'
I'd never scheme or lie Bill
There's been no foolin'
but kisses and love won't carry me
till you marry me Bill
 
Bill I love you so
I always will
and in your voice I hear
a choir of carousels
Oh but am I ever gonna hear
my wedding bells?


I was the one came runnin'
when you were lonely
I haven't lived one day
not loving you only
but kisses and love won't carry me
till you marry me Bill
 
Bill I love you so
I always will
and though devotion rules my heart
I take no bows
Oh but Bill you know
I wanna take my wedding vows
Come on Bill
Come on Bill
I got the wedding bell blues、、

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ビル あなたを愛してる
いつもずっと
あなたを見つめると
5月の情熱的な瞳が見える
ああ、だけど、迎えることができるかな
自分の結婚式の日を

 

ああ、私はあなたの味方だったわね、ビル
あなたがうまくいかない時には
私は何かたくらんだり
嘘をついたりしないわ、ビル
誤魔化しはしなかった
でも、キスと愛では私はやっていけない
あなたが私と結婚してくれるまでは、ビル
 
ビル  あなたを愛してる
これからもずっと
あなたの声の中に
メリーゴーランドの聖歌隊が聞こえるの
でも、私は聞くことがあるのかしら
自分のウェディングベルを?

 

あなたがさみしい時に
駆けつけたのは私だった
あなただけを愛さずに
一日も過ごしたことはないの
でも、キスと愛では私はやっていけない
あなたが私と結婚してくれるまでは、ビル
 
ビル あなたを愛してる
これからもずっと
献身が私の心を支配しても
お辞儀はしないわ
ああでもビル、あなたは知ってるの
私が結婚の誓いを立てたがっていることを
ねえ ビル
さあ ビル
私はウェディング・ベル・ブルースに囚われてるの

              (拙訳)

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 ローラ・ニーロは本名をローラ・ニグロ(Nigro)といい(イタリア系の名前ですが、彼女の父親は人種差別的な誤解を避けるために”ナイグロ”と発音していたそうです)、1947年にニューヨーク、ブロンクスで生まれました。この「ウェディング・ベル・ブルース」が彼女のデビュー曲でした。

   

 彼女の父親はジャズ・トランペッターでピアノの調律師もやっていたそうで、彼がピアノの調律に行った音楽出版社の人間に娘の曲を聴いてほしいと頼み、翌日彼女はその会社に行き曲を披露したことで、契約にこぎつけたのだそうです。その時に演奏したうちのひとつがこの「ウェディング・ベル・ブルース」でした。

 

  彼女はR&Bの影響が強い作品で知られる人ですが、この曲はイントロから構成まですべて文句のつけどころのない、見事なポップ・ソングだと僕は思っています。これを書いた時は彼女は18歳だったそうで、こんな曲をまだデビューもしていない十代の女の子が作って歌っていたら、そりゃ音楽関係者は飛びつくだろうなと思います。

 

 しかし、十代であることが裏目に出たのか、レコード会社は彼女を、音楽、ファッション、文化のトレンドを追いかける今どきのティーの女子の代表として売り出し、彼女にウェディング・ドレスを着せたこんな広告を大々的にうったそうで、しかも曲は全米最高103位と失敗に終わってしまいます。後年、彼女は苦々しくこの時代のことを思い返しています。

 

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 この曲の歌詞はジャズ・シンガーヘレン・メリルの実際の恋愛にインスパイアされて書いたようです。ローラはヘレンの息子アランと一緒に育ち、ローラの叔父がアランの叔母と結婚したため、お互いを従兄弟のように思っていたそうです。

 

 彼女はアランからヘレンが奥さんのいる男性と恋愛関係になった話を聞き、その相手の名前がビルだったとのこと。既婚者の恋愛に対して、まだ世間の目が大変きびしい時代でした。

 ただし、この話を聞いたのはローラが11歳のころだったそうで、そのネタを7年も経ってから曲にしたことになります。多感な少女には大人の恋愛が鮮烈な記憶としてずっと残っていたのかもしれません。また、時間が経ったからこそ、事実とは少し距離を置いたフィクションとして書けたのかもしれません。

 

 曲を書いたりしない人でも、記憶というのは、時間がたってからふっと形を変えて何かに結び付くということはありますよね。それが、目の前の問題を解くヒントになったり。記憶は時間とともに形を変えて、忘れた頃にふと自分に働きかけてくるもののようです。

 ちなみに、この曲はフィフス・ディメンションがカバーして1969年に全米NO.1の大ヒットになりました。この曲が優れたポップ・ソングであったことが証明されたわけです。

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 最近では2019年にモリッシーザ・スミスってバンドにいた人ですね)のアルバムでもカバーされています。

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  最後は彼女のデビュー・アルバム「ファースト・ソングス」(リリース当時は『モア・ザン・ナ・ニュー・ディスカバリー (More Than a New Discovery)』というタイトルでした)から、「ウェディング・ベル・ブルース」調のポップ・ソングがもう2曲入っていますのでそちらをぜひ。

 

 Good by Joe  アルバムからのセカンド・シングルでした

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Flim Flam Man   ペテン師という意味のようです。三枚目のシングルのカップリングでした

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