まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「愛するデューク(Sir Duke)」スティーヴィー・ワンダー(1976)

 おはようございます。

 今日はスティーヴィー・ワンダーの「愛するデューク」です。


Stevie Wonder - Sir Duke

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Music is a world within itself
With a language we all understand
With an equal opportunity
For all to sing, dance, and clap their hands
But just because a record has a groove
Don't make it in the groove
But you can tell right away at letter A
When the people start to move


They can feel it all over
They can feel it all over people
They can feel it all over
They can feel it all over people, go


Music knows it is and always will
Be one of the things that life just won't quit
But here are some of music's pioneers
That time will not allow us to forget, no
For there's Basie, Miller, Satchmo
And the king of all, Sir Duke
And with a voice like Ella's ringing out
There's no way the band can lose

 

You can feel it all over
You can feel it all over people
You can feel it all over
You can feel it all over people
You can feel it all over
You can feel it all over people
You can feel it all over
You can feel it all over people


You can feel it all over
You can feel it all over people
You can feel it all over
You can feel it all over people
You can feel it all over
You can feel it all over people
You can feel it all over
I can feel it all, all, all-all-all over the people
Can't you feel it all over?
Come on, let's feel it all over people
You can feel it all over
Everybody, all over people, go

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音楽はそれ自体がひとつの世界なんだ
僕たちみんなが理解できる言語があって
平等に機会がある世界さ
歌ったり、踊ったり、手をたたいるみんな
レコードに溝(グルーヴ)があるからって
ノリ(グルーヴ)でなんとかするなよ
だけど、君も真っ先にわかるだろう
みんなが体を動かし始める時を


みんな全身で音楽を感じれるのさ
みんな全身で音楽を感じれるのさ 全員が
みんな全身で音楽を感じれるのさ
みんな全身で音楽を感じれるのさ、さあ


音楽はわかっているのさ
それが生きている限りやめられないもののひとつで
これからもそうだってことを
だけど、ここには音楽のパイオニアたちがいる
時は僕たちが忘れることを許さないのさ
ベイシー、ミラー、サッチモ
そして、すべての王、サー・デューク
そして、エラのような声が鳴り響けば
そのバンドに敵うものなんてないのさ


君も全身で音楽を感じれるのさ
君も全身で音楽を感じれるのさ あらゆる人が
君も全身で音楽を感じれるのさ
君も全身で音楽を感じれるのさ あらゆる人が

       (拙訳)

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 日本の古い国語辞典の「ジャズ」の項目には「音楽に合わせて踊るダンスの一種」と記載されていたそうです。ビッグ・バンド・ジャズやスウィング・ジャズを指していると思われますが、そういうジャズで踊ることは当時大衆にとって大変魅力的な娯楽でした。その後。ロックンロール、ディスコなどジャンルは変わりますが、大衆音楽の主流はいつも”踊って楽しめること”がもっとも重要なファクターであり、それが脈々と今の時代にもつながっています。

 

 そう考えるとスウィング・ジャズはポップスの<直系の源流>だと捕らえられるのではないかと僕は思います。そして、スティーヴィー・ワンダーがそのジャンルを作った、デューク・エリントンカウント・ベイシーグレン・ミラーといった偉人たちへのリスペクトを表したのがこの「愛するデューク」です。

 

  曲のタイトルになったデューク・エリントンは、ジャズの作曲家/アレンジャー/ピアニスト、そして自らの楽団を率いて一時代を築き上げたまさに巨匠です。

 ニューヨーク、ハーレムのNO.1スポット「コットン・クラブ」のメインバンドとして人気を博し、当時アメリカ全土に広がり始めたラジオ放送で彼らの演奏がライヴ中継されることで一気に有名になったと言われています。

 代表曲はたくさんありますが、その中でもよく知られているものの一つがこれですね。

  A列車で行こう(Take the A train)(1941)

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 これはエリントンが作曲家のビリー・ストレイホーンに仕事をオファーした際に、地下鉄で彼の家への行き方を教えるために書いたメモの最初に”Take the A Train"と書いてあった、なんてエピソードが残っています。

 

 エリントンが亡くなったのは1974年のことで、タイミング的にも、それがこの曲を書く直接の動機になったと考えて間違いないでしょう。

 

 スティーヴィー・ワンダーはかつてUCLAのシンポジウムでこう語っていたそうです。

「最初から曲のタイトルはあった、だけど僕は僕たちのために何かしてくれたミュージシャンたちの歌にしたかった 。じきに彼らは忘れられてしまう。僕は感謝の気持ちを表したかったんだ」

 (STEREOGUM  May 21, 1977)

 

 この曲は彼が1976年9月に発表した二枚組アルバム『キー・オブ・ライフ』に収録されています。

 僕はこのアルバムは、今まで聴いてきたポップ・ミュージックのアルバムの中でも、一人の音楽家の「才能の達成」や「音楽の豊かさ」という観点では史上最高のものじゃないかと、ずっと思っているのですが、当時は音楽誌などでの評論家の意見は彼の作品の中でも「インナーヴィジョンズ」や「トーキング・ブック」のほうがずっと優れているという意見が圧倒的で、僕は正直、首を傾げたものです。

 

 しかし、21世紀に入って少しずつ評価が変わっていったようで、ローリングストーン誌が選ぶ「史上最高のアルバム500」の最新版(2020)では、ついに4位(1位マーヴィン・ゲイ「ホワッツ・ゴーイン・オン」2位ビーチ・ボーイズ「ペット・サウンズ」3位ジョニ・ミッチェル「ブルー」)にまであがっています。

 

 音楽と、それによって引き出されるイマジネーションにはどこまでも限界なんてないんだ、そう思わせてくれたのが「キー・オブ・ライフ」であり、そのアルバムの”顔”でもあったのが「愛するデューク」でした。

 

 個人的なことで恐縮ですが、この「愛するデューク」を初めて聴いた時のことは今でもはっきりおぼえています。僕は小学校六年生で、夜、家族で車に乗って外食に出かける時に、父親がカーラジオをつけるといきなりこの曲が流れてきたのです。ふだんTVで耳にする日本の曲とは全然違っていて、とにかくなんだか猛烈に気分が高揚して、特に間奏の管楽器のフレーズが無性に楽しくて、一気に心を掴まれました。新潟の田舎町(僕の故郷です)の平坦な風景が一変したとさえ感じました。あの瞬間の気持ちの感触は、今もちゃんと残っています。

 

 そのころは英語は全然わからなかったので、ずいぶん後になってこの曲が、音楽には万国共通の言語が備わっていて、誰にでも公平に楽しめるもの、そして全身で感じるものだということを歌っていると知って驚きました。あのときの僕は歌詞もわからないのに、本当に全身で音楽の楽しさを感じたわけですから。

 

 あらためてこの曲を聴くと、スウィング・ジャズの要素も入れながら、彼がそれまでやっていたR&Bやソウル・ミュージックとも違う、他に”似た曲”が当時だけじゃなく、今になっても全く見当たらないような、猛烈にオリジナリティの高い作品だったことに気づかされます。

 楽しくて親しみやすい曲なので軽く聴いてしまいますが、これはスティーヴィーにしか作れない奇跡の1曲かもしれないですね。

 

 最後は、現在の日本のポップ・ミュージック最高の才能、藤井風の弾き語りカバーを。

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